著名人の通信課程での大学卒業などで最近話題の「学び直し」。メディアで見聞きする機会も増えた「リカレント教育」という言葉に興味をお持ちになられている社会人の方も多いのではないかと思います。ここでは、日本のリカレント教育の現状から学び直しの重要性をお伝えするとともに、その学び直しの対象としてMBAが適している理由についてお伝えします。

リカレント教育とは?

リカレント教育とは、はじめて社会に出るまでの学校教育を終えていったん就労したのちも、必要に応じて学習を続け、生涯にわたって学習と就労を繰りかえす教育の形態を指します。リカレントには「循環」や「回帰」といった意味があります。1960年代末にスウェーデンで提唱された教育の在り方で、その後OECD(経済協力開発機構)が推進を決めたことから、ヨーロッパ諸国を中心とした先進国でその考えが広まっていきました。

リカレント教育の主な目的はスキルアップにあります。転職や昇進など、新たなビジネス環境に身を置く際には、それに応じた新たな知識や専門性が必要となります。それらを身につけることは個々人のキャリアアップに繋がるのはもちろんのこと、業績や人材育成にも役立つという考えから、企業や組織においても重要視される概念となってきています。

近年日本では、少子高齢化や平均寿命の上昇などから「人生100年時代」ともいわれていますが、これは単に長生きできるという話ではなく、生涯のうちで就労する期間がより長くなることも示唆しています。労働人口の減少により高齢者人材の活躍も期待される社会状況のなかで、より長く、より多くのステージで働くことが求められるため、個々人の学び直しは必要不可欠なものとなっていくと予想されます。

また急速に技術革新が進む昨今、その変化に対応するためには新たな知識や技能の習得が欠かせないという面からも、リカレント教育の重要性は増しつつあります。旧来からあるOJTなどの社内における実務研修では学びの幅や内容に限界があり、もはや仕事外での学びが必須な時代に突入してきていることを理解する必要があります。今後「学ぶ人」と「学ばない人」の格差が今よりさらに拡大していくのは間違いありません。

「生涯教育」や「リスキリング」との違い

リカレント教育に似た言葉として「生涯学習」がありますが、両者の違いはその目的にあります。リカレント教育が主にビジネスに求められる知識や専門性を学ぶことが目的であるのに対し、生涯学習は人生を豊かにするために学ぶことを主な目的としています。そのため生涯学習の学びの領域には、スポーツや娯楽、文化活動といった趣味の分野も含まれることになります。リカレント教育よりも広義な学びの形が生涯学習ということができるでしょう。

「リカレント教育」と「生涯学習」の違い

リカレント教育の目的生涯教育の目的
ビジネスに求められる知識や専門性を学ぶこと
例)語学力アップや資格取得のための学習、専門知識の習得など
人生を豊かにするために学ぶこと
例)スポーツや囲碁将棋、フラワーアレンジメントなど、趣味の領域の学習。ボランティア活動なども含む。

またもう一つ似た言葉として「リスキリング」があります。近年日本政府が積極的に支援策を打ち出していることから、リカレント教育よりも耳馴染みがあるという方が多いかと思いますが、両者の違いは主導者の違いにあります。リスキリングで学びを主導するのは主に企業や組織であり、人材戦略の一環として進められます。一方でリカレント教育を主導するのはあくまで個人であり、能動的に自らの意志で学ぶことを指します。

「リカレント教育」と「リスキリング」の違い

リカレント教育の主導者リスキリングの主導者
自分自身(能動的な学び)企業や組織(受動的な学び:社内研修など)

圧倒的に学ばない日本の社会人

欧米先進国では広く社会に浸透しているリカレント教育ですが、日本ではまだまだ認知度も低いのが現状です。また、単にリカレント教育が浸透していないだけでなく、日本の社会人が世界的な平均に比べて圧倒的に「学ばない」ことがさまざまな国際的統計からも明らかになっています。

人口100万人当たりの修士号・博士号取得者数

こちらは日本、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、韓国の6カ国における人口100万人当たりの修士号・博士号取得者数をまとめた表です。他の先進国と比べて極端に少ないことがお分かりいただけるかと思います。日本では四年制大学を終えて得られる学士までのレベルで学校教育での学びをストップする方が圧倒的に多いのが現状です。

アジア・オセアニア14カ国・地域における勤務先以外での学習や自己啓発活動に関する調査

学習・自己啓発の内容日本人の%14カ国・地域平均の%14カ国・地域中の順位
読書27.442.314位
研修・セミナー等への参加13.636.914位
資格取得のための学習13.626.514位
語学学習10.224.513位
通信教育、Eラーニング7.723.114位
副業・兼業7.619.614位
NPOやボランティアなどの社会活動4.417.914位
大学・大学院・専門学校4.615.214位
勉強会等の主催・運営2.713.114位
その他4.52.92位
特に何もやっていない46.313.31位
参照:APAC就業実態・成長意識調査(2019年)|パーソル総合研究所
調査対象国…日本、中国、韓国、台湾、香港、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナム、インド、オーストラリア、ニュージーランド

続いてこちらは日本を含むアジア・オセアニア地域における、社会人の仕事以外での学習や自己啓発活動に関する調査から抜粋して作成した表です。「その他」を除くすべての項目で平均値を大きく下回り、しかもそのほとんどの項目で最下位という非常に残念な結果になっています。「特に何もやっていない」の1位もすなわち最下位です。なお、辛うじて最下位を免れている「語学学習」の項目で日本を下回っているのはニュージーランドですが、主な母語である英語の話者数を考えると、日本人よりも語学学習の必要性がそもそも低いと考えられます。なお、同じく主な母語が英語のオーストラリアには負けているという点にも注目が必要でしょう。

日本の社会人が学ばない理由

日本の社会人が学ばない理由は「キャリアに目標がないから」とする声があります。今後のキャリアに対する質問に対して、その実現計画の有無を問わず「目標がある」と答えた社会人は割合は40%に満たなかったという民間の調査もあります。

日本の社会人が目標を見いだせない理由にはさまざまな理由が考えられます。大きなものとしては、新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった日本独特の雇用システムの影響が考えられるでしょう。いったん就職しさえすれば一定の賃金が保証され年齢とともに自動的に昇給していく、たとえ努力して成果を収めたとしても評価がされづらいとなれば、学びを通して知識や専門知識を新たに習得しようとする意識を持つことは難しくなってくるでしょう。

日本の旧態依然とした企業の中には、いまだに残業を良しとする風潮が残っている場合もあります。そういった企業からは「社外で学ぶ暇があるなら働け」という考えがあからさまに透けて見えることもあり、リカレント教育の浸透には大きな障害になっています。

しかしながら、「会社が悪い」「日本の社会が悪い」と嘆いているばかりではいけないでしょう。AIをはじめとした技術革新が急速に進み、よりグローバルな競争環境が生まれつつある現代では、たとえ大企業であっても安定した経営を続けることは難しくなりつつあります。むしろ大企業こそ社会の変化への適応を迫られ、ラディカルな人材戦略の見直しを図る可能性もあるということを覚悟しておく必要性があるでしょう。

MBA学習がプラスにならない社会人はいない

「リカレント教育の重要性は理解しているものの、明確なキャリアの目標がなく何を学んで良いのか分からない」実はこういった人にもお勧めしたいのがMBAです。

MBA教育の本質は、経営管理に関わる広範な知識やフレームワークを実践的に学ぶことで、経営管理のゼネラリストを養成することにあります。日本のMBAにはこの本質を無視して、特定分野のスペシャリストの養成講座をMBAを呼んでいるような自称MBAの例もありますが、当校のMBAプログラムで取得できるMBAは正真正銘のMBAですのでご安心ください。

MBAでは、会計、ファイナンス、マーケティング、HRM、リーダーシップなどの課目を通して、包括的に経営管理を学び、経営者の視点でビジネスを俯瞰的に見渡せる能力を身につけることができます。言い方は悪いかもしれませんが、いわば「広く浅く」経営管理について学べるのがMBAプログラムだということもできるでしょう。専門的な学びを深めることも重要ですが、今後身を置くビジネス環境の中では使えないという可能性もあります。ですがMBAであればそういったことはあり得ません。業種や職種、職務レベルを問わず、経営管理について広く学ぶことがプラスにならない社会人はひとりもいないと断言できます。

MBAプログラムの典型的な課目構成

中には「MBA的な学びの重要性は分かるが学位をとる必要性はないのではないか」という方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、学位というものが国や地域の枠組みを超えて世界中で通用する称号であるということを忘れてはいけないでしょう。よくMBAプログラムと比較検討されるものに中小企業診断士の養成講座がありますが、中小企業診断士は日本でしかその効力を発揮しえない「資格」です。一方でMBA学位を取得した人は日本のみならず、世界中のどこに行ってもMBAホルダーや修士として扱われるのです。一例として外資系企業にCV(職務経歴書)を提出することを考えてみてください。この違いは非常に大きいということがお分かりいただけるでしょう。

教育の格差は国力の格差にも直結しうる重要な問題です。日本の社会人が圧倒的に学んでいないという事実は、近年著しい日本の国際的なプレゼンス低下にも無関係とはいえないのではないでしょうか。ぜひリカレント教育の重要性を認識していただき、学び直しの機会の一つとしてMBAプログラムを選択いただく方々が増えることを期待してやみません。